縛っておけばよかったのに



と言ったら主人は目を血走らせて、渾身の力で私を殴った。
殴ってから、拳を押さえて(「うぉお…」)、唸りながらうずくまった。
馬鹿め。固いのは知ってるだろう。


久々にやってきたから何しに来たんだと聞いたら「強くなりたい」とか(世間的には)真っ直ぐな目でほざいたので、ついカッとなって刺激した。悪いだなんて思わない。もう何日このうざったい空が続いてると思ってるんだ。
どよどよした空に雨が降ったり止んだり、いや基本的にここは結構どよどよしてるが。それでも綺麗に晴れが続いた時もあったのだ。確かに。
そういえば随分前にも雨が続いた時があったが、あの時のほうがまだマシだ。あの時は景気良いくらいの土砂降りだった。雨上がりには綺麗に虹がかかった。
それなのに最近と来たら








「鎖が錆びる」

うずくまる主人に告げたら、ぎっ、と人相の悪い顔で睨み付けられた。その顔。
それが本性の癖に、ソトで主人は、努めて善人面する。特にあの人の前ではそうだった。本当は卑屈で臆病で煩悩の塊の癖に。
それでも、晴れているうちは良かったし、晴れている時、主人はほんとうに善人になっていた(ように本人は思ってた)。
けれど、その結果がこれだ。苛々するような長雨だ。


最後、縛っておけば良かったんだ。
悪人になろうが、常識に反しようが、あの人に失望されようが。
出してくれたらそれこそ最高の働きをしてやったよ馬鹿め。

ばか め、







「っ…、だからテメェは嫌いなんだ」

雨か何かで濡れた頬で、主人が呟く。
じゃあおあいこ。私もアンタが嫌いだ。





『鎖だって腐りますので』

by 泳兵