どうぞ一服

風邪の季節だ。
風邪の季節だが、九番隊には風邪など関係ない。
六車隊長に鍛え抜かれた強靭な心身を持つ男達に、病気など効きはしないのである。





「って言うのが世間の評判なんだがな〜」

「へっぐしッ…!!」

衛島のちくちくとした物言いに、藤堂はくしゃみで返答した。
衛島が露骨に嫌な顔をする。
嫌な顔をした後、諦めたように息を吐き出す。

「頼むからバラ撒くなよ」
「悪い」

いっそ恐ろしいくらいの鼻声に、話を聞いていた笠城も、眉間の皺を深くする。



別に不養生だった、というわけではない。

討伐に連れていった隊士数名、いずれも九番隊の名に恥じずみな頑健であり、風邪などものともしない。風邪はものともしないが、腕は今一歩足りなかった。
討伐は無事成功したものの、一名負傷。外傷と、毒を受けたらしい。
この小隊を率いていたのが、藤堂為左衛門六席だった。



「それで四番隊連れて行ったら、介助者も毒の検査、って病人がうじゃうじゃいる中一時間半待ちだもんなぁ〜。そりゃ風邪も貰うっての」
「その上最近疲れてるからな。こうも仕事が多いと、さすがに敵わん」
目頭を揉みながら言う笠城に、衛島が同意の視線を送った。
近頃は風邪で他隊が手薄になっている分、九番隊に仕事が回ってくる。今現在とて、残業の真っ最中だ。
「他の隊が軟弱なんだ」
チーン!と鼻をかんで藤堂が言う。
「まあでもうちは、隊長に栄養のあるものを食わせてもらってるし」
昨日隊士達に振る舞われた親子丼の味を反芻しながら、衛島が言う。
あの人は元気がないと、とりあえず「食え!」と怒鳴る。








ガタン

物音に三人、顔を上げると、東仙が椅子から離れようとしている。
「どうした東仙?」
「ちょっとお茶を入れてこようかと」
あまり会話に参加してこない同僚は、そのまま部屋を出て行った。一度開かれた戸からのすきま風に、藤堂がまたくしゃみをする。


数分後。

東仙が盆に四つ湯飲みを乗せて帰って来た。それぞれから温かな湯気が立ち上っている。
机に配って回る。


「すまない」

「ああ、ありがとう」

「おい…なんか……、俺のだけ色が違うんだが」


藤堂が訝しげに湯飲みの中を睨んで言った。どうにも緑茶の色をしていない。匂いを嗅ごうにも鼻が詰まっていてよくわからない。

「ああ、それは生姜湯だ」
「生姜湯?」

恐る恐る液体を啜った。
口内にピリリとした生姜の辛さと、何かほのかに甘い味が広がる。

「お前に風邪を移されては堪らないからな」
温かみのない本気で警戒している言い方に、一言文句でも返したくなったが、ここは黙って生姜湯と飲み込んだ。そんな掛け合いを脇で見つめる眼が二組。


「……あの…俺も入れて貰っていい?」
「俺も頼んで良いか?」


衛島と笠城の頼みに、東仙と藤堂が顔を見合わせる。

「…少し時間がかかりますが構いませんか?」
「うん全然」
「では緑茶のほうは、」
「あ、いや、それも飲むから置いといてくれ」






更に数分後。
東仙が湯飲みを三つ持ってきた。自分の分も入れたらしい。

四人で啜る。
何故か揃って黙っていた。






オマケ




















































「藤堂、ひとつ聞きたいんだが」

湯飲みを洗いながら東仙が尋ねてくる。
なんだ、と目も合わさずに応えれば、返ってきたのは想像もしない言葉。



「生姜湯は、何色なんだ?」



…しまった。またやった。

同じ過ちを幾度となく繰り返している自分に、腹を立てながら、「薄い色だ」と不親切極まりない回答を返す。
東仙は気にするでもなく、そうか、ありがとう、と礼を述べた。