誰がためにサクラサク

投げ入れる賽銭は無かったから、代わりに編んだ笠を被せておいてやる。

ちゃちい祠だ。
奉られている神などいない。それでも大人達は、ここを年に一度は綺麗にして、傷みを直す。
どうしてこんなものが在るのかと聞いたことがあった。在ることが意義だと教わった。
その意味を理解し切らないまま、気付くと修繕する側になっていた。

「また鼠が穴を開けてる。修理しなきゃ」
「ったく、御利益の薄そうな祠だなあ」
「そんなこと言うもんじゃないよ虎ちゃん」

体の大きな牛次に窘められる。
しかし正直なところ、今回の場合御利益があろうとなかろうと、俺はどうでもいい。今ここに居ないアイツの行き先がどうなろうと、勝手にしやがれって感じだ。





牛次が笠を二枚持ってきたから、何に使うんだと聞いたら、この祠に捧げると答えられた。

何の為に?
修ちゃんがさぁ、

その一言でだいたいの事はわかった。
つまり合格祈願をしてやるのだ。
薪拾いの帰りに寄って、今こうしてその前に立っている。
肝心の本人は居ない。





「俺、死神になる」
と言われたとき、俺も牛次もさして驚かなかった。修は俺達と同じ集落の子だったけど、昔からちょっと浮いてて、霊力があるのもそうだけれど、字が読めたり、字が書けたり、なんだか大人も知らないようなことを知ってたりして、それを得意顔で人に教えてくるような奴だった。
初めはなんか生意気な奴だな、と思ったりもしたが、その反面ビビりで泣き虫の甘ったれで、歳の近い俺と牛次の後にいつも引っ付いてくる。幼い頃、俺達は何をするのも、三人一緒だった。


「俺、死神になる」
ひょろひょろと伸びた背が、いつの間にか俺を越えていた修がそう言ったとき、俺も牛次もさもありなんと思っていた。
あの人達に助けられた記憶は俺達にだって刻み付けられていたし、頬にあんな刺青を入れてしまった修なら尚更だ。(刺青は集落の大人達には、全くもって大々不評だったが)
だから修がそう宣言しても、そんなの知ってたわ、くらいにしか思わなくて、
でも、違った。
修は修なりに決意して、俺達に意志を伝えたのだ。


もう修はチビで泣き虫の修じゃなかった。どちらかと言うと冷静で冷めた野郎になっていた。(それでも刺青は入れてしまうような、阿呆ではあった)
宣言した後、修は一層浮くようになった。浮くようになった、というより、自分から集落の人々と距離を置こうとしている、と言ったほうが正しいのかも知れない。それは俺達も例外ではない。
集落の仕事を最低限に減らして、死神の学校?に入る為の準備をするらしい。
集落の人達の、修を見る目は白くなった。当然だと思う。俺らみんなで、俺らの暮らしを守っていると言うのに。




身を縮めて拝む、牛次の丸い背中を見た。相変わらず良い肉付きだが、今はもうその下に、ちゃんと自分と周囲を守るための筋肉がある。
いかにも温かそうなその背に、何かの書き物をしている修のなまっちろい裸足が、無言で当てられていた事を思い出した。俺らがわらぐつを編んでる時にだ。

あー、畜生。なんでこんなに面白くないのか。




「虎ちゃん拝まないの?」
振り返った牛次が、伺うように尋ねてきた。
「仕方ねえなあ。そんじゃ……早く合格して家を出ていってくれますように!」

パン!と手を打って合わせると、牛次がますます困った顔をした。