ロマンス グレー


「あ、白髪」
パンサーはその黒い手を金髪に埋めて一本、取り出した。

「抜いていいスか?」
「やめろ。抜くと増える」
アポロは視線を少しだけ上にして答えた。
頭を乗せているのは教え子の膝上で。アポロを知る他人が見たら飛び上がるほど驚く光景だろうがしかし、当人達の中ではもはやそれも日常の風景のひとつに過ぎなかった。自分がいかに矮小にして汚い人間であるかを身を持って教えてしまった相手に対して、己を取り繕う必要はなく、それでもなお受け入れてくれるならば素のまま付き合うことになる。もっとも、アポロにとってその領域まで達した相手は、パンサーの前には例がないのだが。




「お、もう一本」
「…気が滅入るからやめんか」
「滅入りますか?」
「そりゃあな、」

腕をパンサーの頭まで伸ばす。
丁寧に編み込まれた後頭部に触れ、肘を曲げるとなんの抵抗もなく顔が接近する。
別に白髪があること自体は気にならない。じわじわそういうものが混ざり始める歳なのは自覚しているし、それで平均より多いというわけでもない。
ただ目の前の、照れるでもなく無防備にアポロを見るパンサーの髪は真っ黒で、それが滅入る。これから上っていく少年と下っていく男。何のうのうとオッサンに膝を貸しているのだ。


「例えばだ。お前の頭がグレーになった時の自分の姿など考えたくもない。どんな老いぼれになっていることか」

そう言うとパンサーはニカッと笑う。


「その時でも俺多分、アポロさんのこと好きですよ」






なんで易々とそういうことが言えるのか。
けれど彼の言葉は口説き文句でもなんでもなく、なぜだか信じて良いと思ってしまうのだ。