痛みこそ甘美、怒りすら愉悦



「なんでドンにはたまに敬語使うんだ」

少しばかりの不満を滲ませてクリフォードが尋ねると、パンサーはいつも通りの呑気さで笑う。
「えー?だってなんか貫禄あるし。年上だし」
「俺も年上なんだが」
「なにクリフォードも敬語使えっていうの?」
「いや…」
「俺は構いませんよ王子様」
冗談じみた台詞。
だったがしかし、一つの疑惑がクリフォードに浮かんだ。




「お前…、」

「媚びてるって言われたことないか」












パンサーの表情が固くなった。
固くなって、いつもの目の輝きが失せて、にも関わらず口元を笑わせた(笑う形に“歪ませた”)。あ、これ、

「え?そーなんだよねー。よくわかったなぁ」

何かを引っかいたのかもしれない。




普段見ない態度に、クリフォードの興味が喚起される。
こいつは今何かを怖がっている。過去に何かあったのか。そうかもしれない。こいつの周囲の状況を考えるに、さもありなん、だ。

「なんでだろうなぁ。俺はそんな色々考えてやってるわけでもねぇのに。おかしいよな。ハハ。でもやっぱそう見えるもん?」
無理矢理な多弁から不安が伝わってくる。本人にそのつもりはないのだろうが。
面白い。普段自由奔放にしているパンサーに、こんな面があったとは。
へえ。ふうん。

「俺の他に、誰に言われたんだ」
「へ?」
「媚びてるって」

またパンサーの身が強ばる。
哀れだ。
と同時に、何かの欲求が自分の中で膨らむのを、クリフォードは感じていた。
パンサーはさすがに黙っていた。
目が泳ぐ。触れないでくれ。と、言えないのだこいつは。



「っ…くく」
「…?」

思わずこぼれた笑みに、パンサーが訝しげな視線を向ける。

「お前にそんな面があるとは」
「!!」

意図的に傷を抉られたのだと気づいて、瞬間、剥き出しの敵意をパンサーから送られる。
しかしそれも想定済みだった。ああさすが豹。
敵意もそのまま抱き込むように、こちらから腕を伸ばし、肩に手をかけ、




「欲情する」
「んぅ…!」


舌まで差し込みかけたところで、強い力で引き剥がされた。
無言できつく睨まれる。

困惑と、敵意と、恥じらいと。

「いい顔だパンサー」
頬にするりと這わせた手から、高い体温が伝わってきた。