孤高


あれは確かある初夏の夕暮れのことで、いつものコースを走ってきての帰り道。なーんか足に違和感があって。左足の小指。ほんのちょっとだけど、引っ張られるような感覚がさ。んで、帰って、靴脱いで、よくよく見てみたんだよ。初めは特に問題ないかな〜と思ったんだけど、よーく見てみたらね、コレ、なんか、付いてたの。

紐?
紐じゃないや糸だ。
小指から。ほっそいやつ。
目を凝らさないと見えねーんだけど、でもそれ引っ張ると俺の足の小指も引っ張られて、だから繋がってるってわかった。
しかもそれ、反対側はだらだら〜っと長くてさ。よく見ないとわかんなくなっちまうんだけど。


ん?ああー、確かに今思うと、あの時糸の先を辿って、確かめに行っても良かったかも。でもその日の夜は子守りに行かなきゃならなくてさ。それに踏んで、転んだりしたら厭だしさー、そういうの足に付いてると走りづらいじゃん?
だからばーちゃんの裁縫箱から糸切り鋏借りて

しょっきん



切っちゃった。







「本当はああいうのって切っちゃっマズかったかなぁ〜?って、たまに思うんだけど、クリフォードはどう思う?」

澄ました顔で聞いていたクリフォードはそこで一拍空けた。パンサーのほうへ向けていた視線を、手元の雑誌へと落として言うには

「安心しろ。俺も中学の時、右手の小指に付いてたのを切った。投げるのに邪魔だからな」



「だよねえ〜」
クリフォードの言うとおり安心したのか、パンサーは締まりなく笑った。
クリフォードもつられるように静かに微笑んだ。
(やっぱりお前、)意地の悪い満足感。
普通それは嘲笑と呼ばれることを、パンサーは知らなかった。