11〜19


(11.セナと黒豹とクリフォード)
「サファリで動物に肉をやる時、サービスを受けてるのはどっちだよって話しだ」

そう話した時のクリフォードさんは結構本気で苛立ってるようだったので、どうしようか少し迷ったんだけど、無条件に懐く眼に負けた。
どんな栄光も、彼自身の輝きに隠されてしまって、僕らを甘やかす。
猛獣なのに。

「食べる?」
「え、いいの…!?」
「いいよ。はい」



スプーンでひとすくい柔らかな口内に入れる。
黒豹に餌付け。



『甘やかせる権利』



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(12.クリパン)
お前は良い旦那にはなれない、と言ったら聞いてたのかお前ら、あーって周囲の同意を思った以上に得て、なんだみんなそう思ってたのかよ。
「不満そうだな」とニヤつきながら言ってくるドンが憎い。

「もう一人不満げな男がいるが」

もう一人、ええ〜なんで…って恨めしい目をして俺を見る。
自分の胸に聞いてみろ。
全部置いてってしまう癖に。

「心配するな。誰かがうっかり拾うだろ」
追いかけるつもりの誰かが。


『結婚しちゃおっか』



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(13.ホマパン)
また一緒にできてうれしい
と言われて、確かに嬉しかったのになんじゃそらと腹立つような淋しいような気持ち。

思えば正しかった。
だいたい、最後だった。
(確定はさせない、したくない)

あの夏の日にやっと始まったと思ったらたった1シーズンだった。
でももっとずっと前からこうなるって知ってたような気もする。

おめでとう。





速すぎだろバカ。

『あの日から一番遠い僕ら』



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(15.バッドと王子とパンサー)
「逃げられた」

そう言った気がした、聞こえた気がしたけど俺の気のせいかもね。
でも心の中じゃ絶対思ったはずだよ。

視線の先、祝福を受ける彼は輝くばかりで(きっとちゃんと受け取れる人間だけが器に見合った祝福を受けることが出来るんだ)それを見る彼は、瞬きひとつしなかった。
トップで居続ける難しさは、誰よりもよくわかってて、でもそれ、ぽっと出の、かわいい後輩に追い抜かれちゃった。
だから目を反らすわけにはいかない。
正確に距離を測って、速度を測って、もう追いかける体勢。

「おめでとう」

こっちは確かに言ったはず。
でも素直に祝福できるほど、子供でもなく大人でもなくて、もうこれがっちりロックオン。
ご愁傷様。そら逃げろ。


『逃げるものは追うしかない』



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(16.アポパン)
はじめ当てつけかと思ったがどうもそうではないらしい。
考えてみればそうだ。こいつに皮肉や遠回しな嘲りなど出来るわけがない。

「…あいつにしてみりゃ、多分親切だったんスよね。でも俺、無様でも惨めに見えても、終わりにはしたくなかったんです」

いつもは呑気な声を少しだけ抑えて。
俺ではなくもうだいぶ長い影のほうを向きながら語る。
折れないように太くしている筈の首が、こういう時だけ妙に細く見える。

「俺もだ」
ぽつりと返答すると、今度は顔をこちらに向けて破顔一笑。

神様って性格悪いだろ。
そうとしか思えん。


『美しい終わり方』



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(17.ドンと王子、とパンサ)
だいたい誰が相手でも容赦なくぶつかり納得し、納得させるのがクリフォードの手順だったが、ただ一人それを躊躇わせた男がいた。
ぶつからない替わりにじっくりと観察することにしたらしいが、当の対象は気付いているのかいないのか。

「計りかねてるようだな」
指摘すると不機嫌そうな顔をする。
「ノレンニウデオシ」
「ノレン?」
「日本の諺だ。まあ良いではないか。何者であっても、彼は有能ではある」
「有能なのは知ってても、性質を知らなけりゃカードは切れねえ」
「ほう…」
「なんだよ」
「そう苛立つな」
「じゃああんたはニヤニヤ笑うな」
「すまんなぁ〜こういう顔で」
おちょくるとフン、と鼻を鳴らす。

彗星の如く現れた能天気な本物を観察する、クリフォードの客観的で透明な瞳。
それが嫉妬と羨望と情欲で染められていく様。

実に面白い。




『言わなくてもわかった』



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(18.大和とパンサ)
パトリック・スペンサーから目を反らしてはならない。
それは大和猛がワールドカップを終えて、再び辿り着いた結論だった。
同年代では最高峰の選手に違いなかった。
同時に大和自身が直視しなくてはならない過去であり、高みを目指すなら視界に入れないわけにはいかなかった。

という個人の抱負を相手の都合お構い無しに、真っ正面から蕩々と宣言するのが如何にも大和猛だった。
大男の若い情熱に目を白黒させながらも、最高峰は嫌な顔もせず神妙に耳を傾けている。

「…まあ日本で言うところの臥薪嘗胆ってやつだね」
「ガシーンショータン…」



「って、すっげー強そう…!」


「………………
 
 …強いよ」

熊の肝って本当にこんな味なんだろうか。
苦いだけじゃないから困る。


『一番厄介な存在』



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(19.ワト様とパンサ とホーマー)
「…なんか、悪いことしちゃった」

空港からのバスの中で、小声で呟いてからパンサーがぎくりと口元を覆って、ああ漏らしちゃったんだなあ、と僕は思う。
「大丈夫だよ、ホーマー寝てるから」
そう指摘すると、今度は恥じらうように顔を俯かせる。

このいじましさ反則だよね。
ホーマーの前じゃ絶対に漏らさないのも愛情の深さだろうけど、ぽろりとほつれる姿が拝めるのも、また特権だから悪くない。
「パンサーも少し寝たら?疲れたでしょ」
「いやそれが興奮しちゃってるみたいで、しし」
「困るなあ。休まないともたないよ」
「…うん、いつもありがとワット」

いつも。
その音が妙にざらついて鼓膜を震わす。
いやいや何を今更。
だって僕らは知ってたはずじゃないか。
ほとんど確信してたんじゃないか
だから彼が好きだったんじゃないか。
(結果がじゃない。それを招き寄せることが出来るだけのこころを)

全く本当に、泣けてくるほどめでたい。



『何を、今更』