おいでませ修羅の国


モーガンの用意した“賞品”はインパクト抜群で、故に多分に物議を醸す内容だった。高校生の選手などいない。それが長年のルールだ。
だからあの賢そうな子供達がその件に対してさしてコメントしていないのは正解で、彼らは外国の選手と違い、既にレールに乗ってる。順調に、慎重に、そこから落ちなければゴールはできるのだ。そしてまた大多数のプロ選手もそのレールを通過してきているわけで、その経験があることは、プロなら当然持っているある種の蓄積と言える。
それを持って門をくぐるか、持たずに門をくぐるか。
どちらを選択するのが賢いかは、アメフトをしている高校生に、どちらを選ぶかを聞けばおおよそ見えてくるだろう。
アポロは教え子が、少数派を選ぶ筋金入りの馬鹿だと知っていた。

心臓が縮みあがった。
学内ホールで一緒に応援しよう!の企画を無理矢理断って正解だった。動悸がやばい。
そもそも《嫌な予感》はしていたのだが、人生そう上手くも行くまい、とタカをくくってたところがあった。
天から愛されてる人間は違う。違った。(天からの愛なんざいつだって気まぐれの癖しやがって!)
まだ先の話だと思っていた。
甘かった。それすら許さない才能だった。
門が開けば、奴は行くだろう。
門のその先、地獄だって潜んでいるのを、知らない?まさか!
しっかり見せてしまった。
しっかり見てしまった、お前は、





けたたましく携帯電話のベルが鳴り、瞬間アポロは、実際に肩を跳ね上げた。
取り出して画面を見る。案の定。
取るか取るまいか。
親指は数秒宙に浮いた後、受信にゆっくり着地した。

「…なんだ」
『もしもし!アポロ監督すか!俺やりましたよ!!テレビ見てました!?』
「見てた。これから大変だな色々と」
『監督のおかげです!俺、監督に一番にお礼言いたくて…!』
うっかり緩みそうになる口元を、意識して引き締める。
「お前、浮かれてるがこれから…」

これから?
何を言う?警告か?脅しか?
門の向こう側、夢の舞台、そして修羅の国であるということを。
もう知ってるはずの相手に…?

「…負けるな」

自然に口をついて出てきた言葉にしては、だいぶ力強く発声された。
「負けるな、絶対に負けるな。俺に勝ったんだ。お前ならできる」
返答を聞く前に切った。

革張りの椅子に携帯を投げ置いて、天を仰いで、一度深呼吸する。落ち着け、直接顔を見るまではまだ数日ある、と自分を宥めて、気づいた。
おめでとうと伝えてない。





切られた電話をしばらく見つめているパンサーのテンションの納まり具合を見るに、自分達の監督はまたスットコな発言をしたのだろう。パンサーの顔を覗き込みながらホーマーは予想する。

「なんだって?」
「うん、あー…『頑張れ』ってさ」
苦笑い。
傍にいたクリフォードだけが、何故か訳知り顔でフンと鼻を鳴らし、それが聞こえてしまったパンサーは、更に困ったように笑みを深めた。