!!!注意!!!!
・獣化ネタです。パンサーがガチ猫です。
・クリフォードの行動が一部常軌を逸脱しています。
・なんでも許せる人向け。





tomcatの色は黒



猫は毛色が黒っぽいほど、おっとりとしてマイペースらしい。
ならばこの全身が艶やかな黒い毛で被われてる猫が、ぼんやりしてるのは毛色のせいか。
借りてきた猫、もとい預かった猫は、パンサーという大層な名前とは裏腹に、野性味の薄い、のんびりとした猫だった。のんびりとしている、というより、人懐こすぎる。

部屋に連れてきた時はさすがにそわそわしている様子があったが、すぐに慣れたのか今ではリラックスしている。
人にも慣れるのが早いのか、クリフォードの足元に、尾を立ててすり寄ってくる。
足で靴越しに腹に触れてみたが、少しそのアーチを浮かせただけで、またクリフォードに頭をこすりつける。
つまらん、というのが正直な感想だった。

そもそも動物は好きじゃなかった。
嫌いでもなかった。
可愛い、やら、癒される、とやらがわからない。
そんな中でパンサーを預かることを承諾したのは、鼠を捕ると聞いたからだった。
命を奪い取る野生。
可愛いやら癒されるやらはわからん。が、生物学的な好奇心と、使役することについては興味がある。
獰猛なものは好きだ。

けれどもパンサーは、表情からして期待していたような野趣はなく、引き取った初日から敵意はもちろん、警戒心も薄かった。
ケージから出して、点検がてら体に触れる。
喉、頭、背。
どうぞどうぞ、と言うかのように協力的だ。
尾、脇、前脚、後脚、腹、股。
そんなところも見るの、きょとんとした目で自分に触れるクリフォードの手を嗅いだりしていたが、ついぞ嫌がる様子はなかった。腹など少し触れたなら、はい、と言うように床に寝そべり自分から見せてくる。


嘆息。
これが『去勢された』というやつか。
飼い慣らされるとはこういうことなのか。
(ちなみにパンサーは実際には去勢されてはおらず、黒い尾の根元に、ふっくらとした陰嚢をぶら下げていた。そこも指先でつついてみたが、ぴくんっと驚いただけで、牙を剥いたりはしなかった。)

クリフォードの失望を感じ取ったのか、パンサーが励ますように声を掛ける。にゃおん。頭をぐりぐりと足に擦り付けてくるが、避ける。違えよ、バカ。
こいつ本当に猫か。まさか猫の形をした犬じゃねえだろうな。確認する手は何かないか。
クリフォードの物色するような視線に当てられて、パンサーはそわそわと狭い面積を歩き回っている。
突然、パンサーの足が床から浮く。
クリフォードが首根っこを掴み、そのまま左手のみで持ち上げたのだった。
ぶらさげるように持つと、パンサーは見た目より重く感じる。筋肉のせいか?
パンサーは驚いたのか身を捩ったが、爪を立てたり、噛みつこうとする素振りはやはり見せなかった。
クリフォードが空いた右手で窓を開ける。
外からの新鮮な空気が、部屋に流れ込んだ。















「で、投げた…って……?」



コーヒーにすべて中身を流し込み、空になったミルクピッチャーをなおも傾け続けながらバッドが言う。声が震えている。

「クリフォードの部屋…確か、三階…」
「体を反転させて上手く着地した。流石猫だな」
なんでもないことのようなサラッとしたコメントを聞き届けて、バッドはやっとミルクピッチャーをテーブルに置いた。OK、まずは落ち着こうか。
「あ、あーー…とりあえず通報されなくて良かったな…」
「そんなヘマするか」
だよねー。クリフォードだもんねー。

生温い笑みを顔に貼り付けて応対することしか、バッドには出来ない。
動物虐待だ!と騒いだところで、方針を改めるような男ではないと、残念なくらいに知っていた。常識がないわけではない。行動の基準とするものの軽重が、ちょっと常人よりも偏っているだけだ。
そもそもクリフォード大先生の冷徹さが、人間には厳しいが動物には優しいなんていう、生半可なものだと思ってはいけない。

「…てか、そもそもなんで引き取ったの?」
「迷い猫だ。保護した当人が面倒見れそうにねえからって押しつけてきた。費用はむこう持ち。躾は出来ていて手は掛からないから、てな」
「それでもクリフォード、嫌な時はバシッと断るじゃん」
「まあ、少し、興味があった」
《好奇心は猫を殺す》という諺が頭を巡って、バッドはまた遠い目をする。
「えっと、それじゃあ、一応はその猫ちゃんと仲良くやろうと」
「別に獣に好かれようとは思わない」
「仲良くしようぜ〜?せっかくの同居人じゃねえか。クリフォード見て、おびえたりしてない?」
クリフォードは質問に即答せず、コーヒーをスプーンで一度くるりとかき混ぜた。

あれ?
その歯切れの悪さに、バッドは僅かに目を見開く。
「…それがそうでもなかった。相変わらずすり寄ってくる」
「マジ?」

返事代わりにコーヒーを啜るクリフォードに、自分の頬が弛むのをバッドは感じた。クリフォードをもってしても、予測不能なことはまだあるらしい。実に良い気分だ。

「へへ、肝が座ってるのかね」
「知らん。すごく頭が悪いだけかもしれない」

クリフォードの発言はいつも見事なまでに無味無臭で、本当に悪態なのか、それとも愛を込めた悪態なのか、バッドにすらわからないことが多い。
しかしちょうど今クリフォードの鞄に、猫用のささみが入っていることも、この時のバッドはまだ知らない。