おやすみけもの


静かにしてるパンサーってセクシーだ。

うたた寝をしている後輩を見ての感想に、バッドは自分でぎょっとした。
合宿所のランドリーは、ただ洗濯機が回る音だけが響いている。
その片隅で首を少しだけ傾けて居眠りしているパンサーは、背もたれもない椅子に器用に座り、いつもの陽気な雰囲気をしまい込んで、気配が完全に消えていた。バッドが気付いたのも、自分の洗濯物を突っ込んで、部屋を出ようとしたところだった。
あの生命力に満ち溢れたようなパンサーが、身じろぎ一つしない様子が珍しくて、近くまで行って覗き込んだ。

そうして出た感想が前述のものだが、バッドにしても意外すぎて、はてセクシーとはと考えたくなる。
うたた寝しているパンサーは、静かで、妙に秘めやかだった。本当言うと頬でも突ついてやろうと思っていたが、なんだか申し訳なくなってやめた。
疲れているらしい。無理もない。
あのクリフォードやドンが、ただ一緒にいるだけでどれほどのプレッシャーを与えることができる人物か、これは経験者でなければわかるまい。
それを唐突に受けることになったにしては、パンサーは驚くほど良くやっていると思えた。急浮上してきたパンサーの実力を訝しむ輩も、このタフさを見れば黙るんじゃなかろうか。
もう一つ、バッドが感心していることがある。パンサーのその二人に対する態度、ひたすらに平伏すわけでもなく、かと言って否定もしない。ともすれば誤解を受け勝ちなあの二人(二人とも賢いのでそれをも勘定に入れているようだが)の友人を、本当に慕ってくれている。
ポリシーが異なろうとも、対立することがチームの為にならないと知っている。
良く出来た、と言って良い、けれどもそういう印象を与えない、不思議な選手だった。だからこそ天然なのだと思ってしまうが、寝顔を見て少し考えを改めた。

パンサーも努力してるのだ。
だからくたびれてる。

洗濯物を放り込んで、ほんのちょっとの時間のうちに寝入ってしまったのだろう。
閉じられた眼も、上下する胸も、なんだか寂しいくらいに静かだった。
遊園地から帰るときのような、妙な切なさと、人恋しさに似ている。
この感覚はどこから来るのか。
見極めたくて、産毛が見えるほどに顔を近づける。滑らかな肌に吸い込まれるように、身を屈めて、首を伸ばして、

「あ」
眼が二つ、バッドを見ていた。
0コンマ何秒で焦点が合わさり、
「っうぁっ!!?」
イケメンのドアップに驚いたのか、盛大に仰け反って、椅子の脚が浮いた。
「うおぉぉーーっと!!?」
咄嗟に手を伸ばして、強引に自分のほうへと引き込む。
重しのなくなった椅子が床を叩いた音が響いて、パンサーはバッドの胸へと収まった。

「あ、ありがと!」
顔を上げて礼を言うパンサーは、まったくもって、いつもの素直でちょっと間の抜けた、可愛い後輩だった。
「あの、さっき、俺変な顔でもしてた?」
少し困ったように笑って尋ねる。


「…パンサーって彼女居る?」
口にしてから、あ、と思った。
即断即行が身に付きすぎている。

「いないけど…何…?」
幸いにもパンサーは、その言葉を男同士のステータスの計り合いと受け取ったらしい。いないことを少し恥じて、きっとこっちが僅かに浮かれたなんて知らない。

「! いなそうだなぁと思って見てた!?ひょっとして…!!?」
「やだーそんなことねぇよ〜。ただ男前なのに世間の女の子は見る目ねえな〜、と思ってたの」
「思ってんじゃん!!」
「しょうがねえよ、俺よりクリフォードのほうが格好良いらしい世の中だもの」
「バッドも格好良いよ?」
「知ってます!」

けらけらけら。
楽しげに笑うパンサーに、ヘアバンド越しにキスを落として、さっき見たものもなかなか良かったけれど、あれは秘密にしとくことにする。