はなからこい


「いいにおいがすると思った」


インタビュアーには言わなかったんだが、
前置きに続いてクリフォードが言った。

『お互いの、初対面での印象はどうでした?』という質問に、「アホ面だと思った」とかそういう素直な(?)回答をされずに済んだことに、内心ほっとしていたパンサーは目を丸くする。

「それ初めて聞いたよ…」
「当然だ。初めて言った」
「いや、そんな風に言われたの」

途端クリフォードの眉間に縦に皺が刻まれ、(まずった…!またやった…!)とパンサーは肝が冷える感覚を味わう。
「そう言ってくる奴が俺以外に居たら、知らせろ。すぐにだ」
了承以外は受け付けない声。
クリフォードのこういう態度に触れる度、パンサーは慣れることなく緊張を繰り返す。
「わ、わかったよ…!」
返答を聞いたクリフォードが眉間の皺を解くのを確認して、パンサーは再び胸を撫で下ろした。


「ね、それホント?」
「嘘をつく理由がない」
「そりゃそうだけど」
腑に落ちない顔をしているパンサーに、クリフォードはチラリと視線を向ける。
「何が納得できねえんだ?」
「いや〜覚えてるほど臭うってのもどういうモンかな〜って」
笑いながら答えるパンサーに仄かに戸惑いと焦りを見出して、なるほど、貧乏な家の子は汚い、という扱いはままある話だ。切り口を変えるか。

「お前、初めて言われたと言ってたが」
「んん?」
「俺も『いいにおい』だと他人の体臭に対して感想を持ったことは、たぶん、初めてだ」
「そうだな〜。クリフォードって俺が『さっきのあの人、いいにおいしたね』っつっても、香水の種類とかは言うけど、いいにおいとは、言わねー、し………」

目を軽く伏せ、口を引き締め。
そこまで言ってやっとパンサーがしおらしくなったのは、ようやくこれが睦言の類だと気づいたのもあれば、もっと直接的に、クリフォードが指を絡ませてきたのもあった。当然、《友人同士》でする絡ませ方でない。


「………照れるね…」
「遅い」
クリフォードが一喝すると、捕まえた指先がびくりととび跳ねたのがわかった。
「お前のそういうところ、たまに意図的なものかと疑う」
「ちが、ちがうよ…!」
「知ってる」

そう言いながら口角を上げたクリフォードが、首筋に鼻を近づけてくるのを、パンサーは甘んじて受け入れた。さっきまでの話のせいか、今日は呼吸をいつもより感じる。



「ところで本当だぞ、この話は。俺も奇妙に思う」
耳元での小声に、繋いだ手に力が入る。
「が、体の相性が良いとそう感じるらしい」
初対面で?
パンサーが訊ねようとするも、ぼんやりと酔うような感覚に邪魔されて、それが声になることはなかった。

「遺伝子レベルで欲している」

そんな風に言われたら、あげねーわけにはいかねーじゃん
首筋に埋められた尖りっ鼻が、深々とクリフォードの肺に空気を満たしていくのを感じながら、パンサーはきゅっと目を閉じた。