蜻蛉の見送り


幽霊のようだと思った




と、幽霊が言うのもおかしな話だが、とりあえず目の前に現れた同僚は、真夏に白い装束をかっちり着込んで、足音も霊圧も気配も、不必要な程に抑えて登場した。躰が薄くなっている気がする。

「ご苦労。…暑くないか?」
「暑い。けれど、荒れ地なら皮膚を覆ったほうが良いだろう?変な蟲がいないとも限らない」

軟弱な。
腹の中で小さく侮るが、暑さに負けて腕を剥き出しにしている自分を、棚に上げるのもどうかと思い、控え目にしておく。そういうのを真っ正面から非難できるのは、年がら年中腕を出している、隊長のような人だけだろう。


「報告は?」
「済ませた。今日はもう上がりだ」


言いながらゴーグルを外す。汗ばんだ皮膚が露わになるのを眺めていると、ちかりと、目線(と言っても相手は見えてはいないのだが)がかちあった。


「藤堂はこれからか」
「ああ。討伐にな。集合待ちだ」
「小隊長は衛島三席か」
「いや。副隊長」
「…それは時間がかかりそうだな」


同情、というよりはただ淡々と予想を述べて、東仙はさっさと消えた。

二週間の単独調査から帰って来たと思ったら、これだ。じりじりとした暑い最中、暑苦しい恰好をして、しかしさしてそれが、暑苦しくないように映るのだから困る。というよりか面白くない。
始めっからそういう男だった。今回だって、出発の前日は、丸一日藤堂との行動だったというのに、翌日には何の音沙汰もなく発ち、今日、幽霊のようにまた現れた。
死覇装に包まれたあの身には、体温が通っているのか。
東仙が出ている間に飲みに行き、そういったことをぼやいたら、衛島には苦笑いされた。笠城は少し眉を上げて、焼き串を口に入れた。

「おい藤堂!」

不意に呼ばれて振り向いた。衛島が身支度を済ませて立っている。笑顔だ。


「そろそろ出発できそうだ」
「副隊長は…?」
「なんとか機嫌を直してくれたぞ。東仙が上手く宥めてくれた」
「東仙が?」


そういえば、不思議と副隊長には懐かれていたことを思い出す。帰ったのではなかったのか。

「葛切りを作るってさ。笠城の奴、手伝わされるぞ」

要は食い物で釣ったのか。
にやにやしながら言う衛島を見遣ると、後ろで水を打つ音がする。

涼しげに袖なしの死覇装を着た東仙が、打ち水をしている。





「いってらっしゃい」












やっぱり食えない。